(上)出典:Saba News Agency / alsyasiah / HOCC フーシ派の一部門、人道支援作戦調整センター(HOCC / Humanitarian Operations Coordination Center)が、国営サバ通信を通して、サウジアラビアに対する事実上の航空封鎖を宣言したSNS用画像
日本時間10月5日(月曜日)フーシ派(アンサール・アッラーがより正しい呼称だが当記事では日本人により馴染みのあるフーシ派で呼称を統一)の一部門、人道支援作戦調整センター(HOCC / Humanitarian Operations Coordination Center)が国営サバ通信を通し、サウジアラビア領空で運航する全ての航空会社に対して、同領空は今後フーシ派の作戦範囲に含まれ、危険であると警告を発する文書を発表した。ただしイスラム教の聖地メッカとメディナの領空は例外であると記載されている。
これはフーシ派がサウジアラビアに対して事実上の航空封鎖を実施すると宣言したものとみられる。
備考として、サウジアラビアは2015年3月にイエメンにおける軍事介入を開始して以来、空港の滑走路や施設を空爆するなどして、水準の変動はあるものの、現在に至るまで、イエメン領に対する事実上の航空封鎖を課している。
※サバ通信社はイエメン内戦以降、親フーシ派組織と親暫定政府(大統領指導評議会 / PLC)組織に分裂しているため、サバ通信を情報収集に活用したい人は、二つの同名称のメディアを混同したりしないよう注意が必要だ。
原文
Humanitarian Operations Coordination Center to Saba Agency:
As a result of the Saudi aggression on our country with its aircraft.
And out of our keenness for the security and safety of civil aviation and people’s lives, the Humanitarian Operations Coordination Center issues a warning to all airlines operating in Saudi airspace as it is unsafe.
The airspace of the Kingdom of Saudi Arabia will be a theater for the operations of our armed forces, and the Republic of Yemen disclaims its responsibility after this announcement.
We affirm to all civil aviation companies that the airspace of the Kingdom of Saudi Arabia is unsafe, with the exception of the airspace of (Mecca and Medina), for it is always safe from the side of the Yemeni armed forces.
筆者訳:人道作戦調整センターからサバ通信社へ:
サウジアラビアによる航空機を用いた我が国への侵略の結果、
民間航空と国民の生命の安全に対する我々の強い懸念から、人道作戦調整センターは、サウジアラビア領空で運航する全ての航空会社に対し、同領空は危険であるとの警告を発する。
サウジアラビア王国の領空は、我々の軍隊の作戦の舞台となるだろう。イエメン共和国はこの発表後、一切の責任を負わない。我々はすべての民間航空会社に対し、サウジアラビア王国の領空は危険であると断言する。ただし、メッカとメディナの領空は例外であり、イエメン軍の側から見て常に安全である。
出典:Humanitarian Operations Coordination Center issues warning to all airlines operating in Saudi airspace − Saba News Agency
該当記事リンク:https://www.saba.ye/en/news3803151.htm
最大の動機はサウジアラビアがイエメン領内へ大規模な空爆を行っていることに対する報復が挙げられる
※以降は筆者の分析になるため、今から語られる内容が、決して現在の状況を正確に読み当てているわけではないこと、根拠となる情報が正確でない可能性があることに留意が必要だ。あくまで一人の意見として聞いてほしい。
イエメン・サウジアラビア情勢のおさらい
読者の殆どは中東情勢に関心がある者であると思うので、必要はないと思うが、一応当サイトではイエメン内戦の近況に関する記事が全く出されていなかったので、軽くおさらいしようと思う。全体的な大雑把な流れとしては以下の通りだ。
1.フーシ派がイランの元最高指導者アリー・ハメネイ氏の国葬に出席するため、代表団が旅客機でイエメンからイランに渡航する
2.サウジアラビアは一連の動きを違法とし、旅客機の発着陸拠点であるサナア国際空港を空爆する。
3.フーシ派は違法な侵略行為だとし、報復として、サウジアラビアのアバ国際空港とキング・ハリド空軍基地に弾道ミサイル及び自爆型無人機による攻撃を実施、以降報復合戦に。(以降サウジアラビアによるイエメン領内への空爆は継続される)
4.フーシ派は戦闘の激化と、これまでのサウジアラビアによる12年間の封鎖に対する報復として、紅海においてサウジアラビアに対する海上封鎖を発表。紅海を航行するサウジアラビア船舶に攻撃が実施され、被害が生じる。
5.フーシ派がサウジアラビアの原油関連施設に対して弾道ミサイル及び無人機を用いた攻撃を開始する。
6.停戦が続いていた地上でも徐々に戦闘が再開され、フーシ派はイエメン西部沿岸部で大規模な攻勢を行い、ハイス/ホーカ/モカ/ドゥバブなど沿岸部の都市を制圧。キダル島、ズカル島、ペリム島など洋上の島嶼群の制圧も確認される。(例の東西パイプライン攻撃はこの辺りで発生する、サウジアラビアはイラクのイスラム抵抗勢力の犯行だと主張しているが、疑念が残る)
7.マアリヴ、タイズ方面でもフーシ派は攻勢を強化。タイズに至っては包囲を形成
8.アメリカやイギリスの軍事顧問がサウジアラビアで増強されているという報道があるなか、イエメン暫定政府(大統領指導評議会 / PLC)が大規模な反撃をイエメン西部沿岸部で開始。サウジアラビアはイエメン領内で平均して一日100回以上と激しい空爆を行う。イギリス・フランスの軍用機もPLCの攻勢と同時期にジブチから離陸し、アデン湾を飛行したことが確認されており、関与が疑わしい。また、8.は現在進行中の出来事であり、第三者視点から確認できる結果は判明していない。
今回の件も単純に新たな報復に過ぎない、行われるとすれば空港への攻撃だろう
上記の時系列を見てもらえば分かる通り、一連の出来事は単純に戦争目標を達成するための軍事力や地政学的特性を用いた報復とエスカレーションの連続であり、筆者の考えでは今回もその一環に過ぎないということだ。
そして肝心の封鎖が実施されるのかブラフなのかどちらなのかという点についてだが、現時点ではどちらか判断するのは困難だ。洋上船舶の攻撃は2023年〜25年のガザでの戦闘期間や今年6月に実施されたため、海上封鎖の場合、おそらく実行されるだろうと判断できたが、今回は前例がなく、どのような形で実行されるのかも当然だが判明していないため、判断を困難にしている。
仮に実行するならば、フーシ派は戦闘機部隊を一切保有していないが、大量の弾道ミサイル及び自爆型無人機を保有しているため、これまでたまに起こっていた空港への攻撃を以前より継続的に行うのではないだろうか。
HOCCの文書では、サウジアラビア領空の危険性を訴えているが、フーシ派にサウジアラビア上空を飛行する航空機を攻撃する能力は持ち合わせておらず、仮に能力を有していたとしても、そのようなことをすれば国際的に大問題だろう、サナア政府(フーシ派)は既に国際社会から孤立しているものの、湾岸戦争時のイラクのような事態にまでは孤立したくない筈だ。
筆者のイエメン情勢の感想とお願い
イエメン情勢は現在進行中の世界の紛争のなかでトップクラスに情報戦が激しいため、誤情報拡散を避けるため出来れば取り上げたくなかったが、事態が無視できないほどにエスカレーションしているために、以降は定期的に取り上げようと思う。勿論情報のファクト性を高い水準で維持することは心掛けるが、もしかするとデマを流してしまうこともあるかもしれない、そこについては記事を読む際の前提として理解して頂けると、とても有難い。

